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横浜地方裁判所 平成元年(ワ)1214号 判決

原告

小谷滋

原告

小谷久美

原告

小谷和子

右三名訴訟代理人弁護士

安達一彦

被告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

山口開生

右代理人支配人

宮脇陞

右訴訟代理人弁護士

久保田彰一

主文

一  被告は原告小谷滋に対し、金五一五三万六八〇〇円、原告小谷久美、同小谷和子に対し、それぞれ金五〇万円ずつ及びこれらに対する平成元年五月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告小谷滋に対し、金五三四六万三五五九円、原告小谷久美と同小谷和子に対し、それれぞれ金二〇〇万円及びこれらに対する平成元年五月二七日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

昭和六二年九月一一日午前〇時三八分ころ、原告小谷滋が原動機付自転車(戸塚区キ七二七三)で横浜市戸塚区戸塚町二一六三番地先路上を下郷方面から大阪上方面に向かって走行中、右道路上を高度1.2メートルで横断していた被告の所有、占有する架設電話引込線(以下「本件電話線」という。)に頚部を接触させて転倒した(以下「本件事故」という。)。

2  責任

(一) 電話線架設状況

本件事故現場の道路幅員は約5.87メートルであるが、被告はアパート中村荘の二階に碍子を設置し約二〇メートル離れた電柱から、約5.12メートルの高度で、道路を横断して本件電話線を架設していた。

(二) 事故の原因

本件電話線は少なくとも本件事故の一カ月前から弛んでおり(その一番低い部分は、地上高度三メートル四〇ないし三メートル九〇センチであった。)、そこにクレーン車と思われる大型車両が接触したため、アパートの碍子が破壊され、電話線が1.2メートルの高さに垂れ下がったのである。

(三) 瑕疵

本件電話線には1.2メートルに垂れ下がっていた点、その前から電話線が弛んでいた点において、また、電話線のたわみによる大型クレーン車との接触の危険に対し、電話線の架設高度が低すぎたか、支点間の距離が長すぎた点において瑕疵があるから、被告は民法七一七条により責任を負う。また、このような高さ、方法で電話線を架設したのは被告の過失であるから、民法七〇九条により責任を負う。

3  身分関係〈省略〉

4  原告らの損害〈省略〉

二  請求原因に対する認否〈省略〉

三  被告の主張

1  本件電話線は、その高度が五メートル以上に保持されていたし、その間隔も四〇メートル以内であるから法規上も工法上も何ら問題はなく、本件電話線の設置保存に瑕疵はない。

2  民法七一七条の土地工作物責任は、完全な無過失責任ではなく、土地工作物の設置又は保存に瑕疵があった場合、すなわち、土地工作物が他人に危害を及ぼすような状態に至った場合、その危険を取り除き事故の発生を未然に防止しなければならないのに、そのまま放置した場合に認められるべきものである。しかるに、本件電話線は、原告滋が、本件事故現場を原動機付自転車で通過する直前に、大型車両と接触した衝撃により高度1.2メートルまで垂下し、その直後、同原告が右電話線に接触したものであるから、本件電話線の設置保存に瑕疵はない。

また、地上高五メートル以上の車両が本件事故現場を通行することを予測するのは到底不可能である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求の原因1(事故の発生)の事実、同2(一)の事実及び同(二)のうち、クレーン車と思われる大型車両が接触したためアパートの碍子が破壊され、本件電話線が1.2メートルの高さに垂れ下がったことは争いがない。

そうすると、本件事故当時、土地の工作物である本件電話線は地上1.2メートルの高さに垂れ下がって道路を横切っていたのであるから、その設置保存に瑕疵があったことは明らかである。

仮に、被告のいうとおり、大型車両の接触前に本件電話線の高度が五メートル以上に保持されていたとしても、行政上の取締規定に違反していなかったという一事をもって、民法七一七条一項の規定による所有者の賠償責任を免れることはできないし、第三者の行為が関与したり、被告が本件電話線の瑕疵ある状態を知り得なかったということも、いずれも所有者の前記賠償責任を免責せしめる事由となるものではない。また、被告は地上高五メートル以上の車両が本件事故現場の道路を通行することは、到底予想不可能であると主張するが、近時の車両大型化現象に伴い、特にダンプカー、クレーン車、レッカー車等の工事関係車両が、荷台やアームを上げたままで走行し、電線などに接触する事故を惹起することが必ずしも希ではないことは、経験則上明らかであるから、右は採用できない。したがって、被告は民法七一七条により、土地の工作物の所有者として原告に生じた損害を賠償する責任を負うというべきである。

のみならず、〈証拠〉によれば、本件電話線は昭和六二年八月二二日頃から弛んで弧を描いていたことが認められる。

二ないし六〈省略〉

(裁判官清水悠爾)

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